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トンネルに入った瞬間の視界ゼロが怖い

トンネルの先から見える緑

真夏の太陽から一転、ブラックアウトする視界と襲いかかるパニック

雲ひとつない快晴のツーリング日和、強烈な直射日光から目を守るためにスモークシールドや偏光サングラスを装着して走るのは、ライダーにとって一種のステータスであり、快適なライディングには欠かせない装備です。

しかし、その頼もしい相棒が、特定のシチュエーションにおいては牙を剥く凶器へと変わります。
それが、山間部のツーリングで頻繁に遭遇する「トンネル」です。

真夏の太陽が降り注ぐ眩しい世界から、照明の乏しい古いトンネルへと突入した瞬間、世界は一変します。

人間の目は、急激な明暗の変化にすぐに対応できるほど高性能ではありません。
明るい場所に慣れきった瞳孔は、急な暗闇に対して「暗順応」が追いつかず、さらにスモークシールドがわずかな照明の光さえもシャットアウトしてしまうため、視界は完全にブラックアウトします。

それはまるで、目隠しをされた状態で時速60キロで走り続けるようなものです。
路面の白線はおろか、自分が車線のどこを走っているのか、前方にカーブがあるのかさえ分からなくなる恐怖。

平衡感覚が狂い、自分が宙に浮いているような、あるいは地面に吸い込まれていくような強烈な浮遊感とパニックが、ヘルメットの中で静かに、しかし確実にライダーを蝕んでいきます。

シールド越しに広がる無限の闇と、反響する轟音の二重苦

視覚を奪われる恐怖に加え、トンネル内特有の環境がライダーをさらに追い詰めます。

薄暗いオレンジ色のナトリウムランプは頼りなく、路面に落ちているかもしれない砂利や落下物、濡れて滑りやすくなっている湧き水といった「路上の罠」をすべて闇の中に隠してしまいます。

慌ててシールドを開けようと左手をハンドルから離そうとしますが、平衡感覚が曖昧な状態で片手運転になることへの恐怖が動きを鈍らせることでしょう。

さらに、密閉されたトンネル内では、自車の排気音や対向車の走行音が凄まじい音量で反響し、ゴウゴウという轟音がヘルメットの隙間から鼓膜を直接叩きます。

視界は真っ暗、耳元では爆音、そしてひんやりとした冷気が首元を撫でる感覚。

五感のすべてが混乱し、方向感覚さえも失いそうになる極限状態の中で、ただひたすらに前方の出口に見える「白い光」を求めて耐え忍ぶ時間は、たった数分であっても永遠のように感じられます。

前の車のテールランプだけが唯一の救いですが、もしその車が急ブレーキをかけたらどうしようという疑心暗鬼が、グリップを握る手に嫌な汗を滲ませます。

恐怖体験が教えてくれる、生存本能と安全マージンの重要性

この「視界ゼロ」の恐怖を一度でも骨の髄まで味わったライダーは、二度と同じ過ちを繰り返さないよう学習します。

地図を見てトンネルが多いルートだと分かれば、あらかじめクリアシールドを選択したり、トンネルの手前で必ず十分に減速してシールドを跳ね上げる動作をルーティン化したりするようになります。

トンネルでの視界不良は、単なる「見えにくい」という不便さのレベルを超え、一瞬の判断遅れが命に関わる重大なリスクです。
ベテランライダーがトンネルの入り口で見せる一瞬の躊躇や減速は、臆病なのではなく、数々の修羅場をくぐり抜けてきた生存本能が正常に機能している、何よりの証拠と言えるでしょう。